大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和36年(ツ)27号 判決

上告人 被控訴人・被告 樋谷三松 外一名

訴訟代理人 手取屋三千夫

被上告人 控訴人・原告 中田三郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの平等負担とする。

理由

上告理由は別紙のとおりである。

そこで判断するに、労働基準法二七条は使用者に対し出来高払制その他の請負制で使用する労働者について、労働時間に応じた一定額の賃金を保障することを命じ、もつて労働者の生活の安定を図つており、もし労働契約において該法条に違反した場合は同法一二〇条により使用者に刑事責任ある旨を定めているが、右二七条は単に使用者に対し労働契約においていわゆる保障給を定めることの義務を負担せしめた規定にすぎずして労働契約において右保障給の定めがない場合においても労働者は使用者に対し保障給を請求し得ることを定めているものとは解すべきでなく、同法一三条を考慮するも右解釈を異にすべきでない。

従つて原審が上告人らと被上告人間の雇傭契約において保障給の支払につき何等の契約がなかつたから上告人らは被上告人に対し保障給を受給する権利を有しないと認定判断したことは相当であり、右判断に反する上告人らの見解は採用することができない。

よつて本件上告は理由がないから之を棄却することとし民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条によつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂本収二 裁判官 西川力一 裁判官 渡辺門偉男)

上告理由

原判決は法令の解釈を誤つたものであり破棄されるべきである。原判決は労働基準法第二十七条の出来高払制その他の請負制で雇用される労働者が右法条により、いわゆる保障給の支払を求めうるためには、当該使用者との間に労働時間に応じて一定額の賃金の支払を受ける旨の契約を締結していることが必要であつてかような契約のない場合は、その支払を求めることができないものと判断し、本件は出来高払制で雇傭された場合にあたるけれども、いわゆる保障給の支払については何等契約がなかつたことに帰着するから被控訴人等は該保障給を受給する権利を有しないものとした。しかし労基法第二十七条を右の様に解すると、右条項を設けた趣旨が殆んどなくなり、労働者保護立法としての意義を半減するものである。即ち判旨のように労働時間に応じて一定額の賃金の支払を受ける旨の契約を締結しているならば使用者に対し右金員の請求ができることは労基法の規定をまつまでもないことであり、そうだとすれば、右基準法の規定は単に罰則によつて使用者の実行を期待するにすぎないこととなり、労基法第十三条の規定も空文となり労働者の保護の完全が期待できないからである。労基法第二十七条はまさに本件の如く労働者の弱点につけ入り、固定給を定めることなく(或は食事を与える等とか平均的な賃金を著しく下廻るような定めをした場合)労働者を使用した時にこそ同法第十三条と相まつてその意味を発揮するものであり、同種の労働者の保障給等その他の事情を斟酌した賃金請求権を労働者に認めることによつて法の完全な実現を期待できるものであり、これに反する原審の判断はその解釈を誤つたものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例